ジョウビタキは、ゴジュウカラやシジュウカラなどと同じ樹洞営巣性の鳥といわれています。樹洞営巣性の鳥は、捕食者に見つかりにくいことのほか、自分よりも身体が大きい捕食者や競合する他の種の侵入を防ぐために、開口部が小さい場所を営巣場所として選びます(図1左)。
ところが、八ヶ岳周辺でジョウビタキの営巣場所を調べた結果、開口部が樹洞に比べて圧倒的に大きい換気扇フード(図1右)が多く利用されていました。なぜなのかを調べることにしました。

図1. ゴジュウカラの巣穴(左)と換気扇フード(右).
産座に座った親鳥の視界に着目して調査
換気扇フードの利用が多かった車山山麓で調査を行いました。ジョウビタキが利用した場所(以下営巣)14か所と利用しなかった場所(以下非営巣)22か所を、巣から見た視界の広さとなる垂直視野角および立体角などの構造面に着目して比較しました。垂直視野角は巣から見た垂直方向の視界の広さです(図2右)。立体角は平面角を3次元に拡張したものであり、ここでは、垂直方向に加えて水平方向も考慮した視界の広がりです(図2左)。単位はステラジアン(sr)です。

図2.典型的な換気扇フードの構造図.左は平面図、右は右側面図.開口部となっている四角形の頂点P1、P2、P3、P4が、親鳥の視点Oからの視界を制限しています.視界の広さを垂直視野角ないし立体角として評価しました.
幾何学と統計を駆使して得られた結果
営巣と非営巣の二つのグループを比較しました。開口部面積の中央値は営巣が699cm2、非営巣が646cm2で、これらのあいだに有意な差(意味のある差)はありませんでした(図3左、Wilcoxonの順位和検定の結果はP=0.994)。垂直視野角の中央値は、営巣が22.3°、非営巣が50.5°で、これらのあいだに有意な差があり(図3 中央、同じ方法で検定の結果はP<0.001)、営巣のほうが小さかったのです。立体角の中央値は、営巣が0.47sr、非営巣が1.16srで、これらのあいだにも有意な差があり(図3 右、同じ方法で検定の結果P<0.001)、営巣のほうが小さかったのです。

図3.営巣の有無による開口部面積、垂直視野角および立体角の箱ひげ図による比較.
箱ひげ図により、異なる複数のデータのばらつきを比較する事ができます.最大値、75%、中央値、25%は四分位数とよばれ、大きさの順に並べたデータを4等分した位置の数値となります.
換気扇フードが選ばれる理由
ジョウビタキは、元々樹洞性の種なのですが、開口部の面積が樹洞に比べて圧倒的に広い換気扇フードを利用しています。しかし、開口部の広さに関わらず、巣の位置からの視界(垂直視野角および立体角)がより狭くなる換気扇フードを選んでいました。例えば、フードの開口部の先端が上向きに大きく開いている場合は、外から中が見えやすいので、利用されにくく、逆に開口部が地面と平行になるまでしっかり覆われていると、中が見えにくいので利用されやすいと言えます。
このことから、換気扇フードが営巣場所として選ばれている理由は、開口部は広くても捕食者から見つかりにくいこと、逆にいえば、巣からの視界に捕食者が入りにくい場所だからだと考えることができました。
立体角による解析は初めて
論文などの文献を調査した結果、鳥類の営巣場所の選択を、巣の隠蔽と可視性という外からの見え方により解析した事例は多かったけれど、巣から見た視野による解析は少なく、立体角による解析は初めてと考えられます。
査読者との議論
まさしく、逆の視点からの解析を提案したわけなので、査読者からは、巣からの視界に天敵が入りやすいことが外からの見つかりやすさと等価であるのか、巣の外からの見え方に比較して巣からの視界が重要であるのかなど、かなり基礎的で重要なことについても議論が求められ、その結果を記述しました。
謝辞
立体角を用いて視界を評価する手法のヒントは、私がお手伝いした石井華香さんの慶応義塾大学の修士論文「点群データをもちいて巣からの可視領域を調査する方法」にありました。また、車山山麓における現地の情報収集、換気扇フードの調査などにご尽力いただいた福澤四郎・佳子御夫妻と現地の方々にも感謝申し上げます。
引用文献
山路公紀・石井華香(2022)ジョウビタキが営巣場所として換気扇フードを好む理由. Bird Res 18: A21-A29.
次回は、ジョウビタキが空き家を好まないことについてお伝えする予定です。