前回は、日本で冬鳥といわれているジョウビタキが、きわめて多彩な営巣場所を利用して繁殖域を広げていることをお伝えしました。今回は、とても変わった営巣場所について、5つの逸話を交えてお伝えします。
薪ストーブ内にヒナが落下
2022年、富士見町で鳥のヒナ数羽が煙突から落ちてきてストーブ内にいる、どうしたら良いかと杉山支部長に連絡が入りました。段ボールに入れてあるとの話だったので、ベランダなど、直射日光が当たらず、親鳥が気づきやすい場所に置くように伝えたところ、すぐに親鳥が来たそうです。1羽は死んだが残り4羽は親について外へ出たとのことでした。
後日、現地を訪問し、お話を伺い調べました。薪ストーブの煙突の排煙口に被せた雨仕舞用角トップ(図1)の中で、鎧のようなルーバーにより、カラスなどの捕食者から守られてヒナは育ったけれど、間違えて煙突内に落下したようです。追加した写真のように、金網をつける方法もあるようです。
図1.薪ストーブ用の煙突と排煙口に被せた角トップの内部構造(金網がある例)
オスが巣に餌を運ばない
2020年にネットの情報をもとに探し当てた北杜市小淵沢町の巣は、ガレージの中にある裏口のそばの靴置き棚に置かれたサンダルに作られていました(図2)。
娘さんから「パパ鳥が餌をあげているところは見た事がない。無事に育つか心配なので、ママ鳥の留守中にミルワームなどを食べさせてあげて良いか」との問い合わせがありました。ふと、2012年に富士見町で観察の途中、オス親のみの給餌となり、オス親の懸命の餌運びにもかかわらず、巣立ちの前後にすべてのヒナが失われた出来事を思い出しました。
巣のヒナにピンセットを使い給餌すると、親鳥が巣を放棄する可能性があり、巣立ち後の育雛も難しくなりそうです。ミルワームに頼る餌の補給は、ヒナの成長を促すのに必要な養分バランスに多少の疑問を感じましたが、先ずはヒナの命の優先を考えました。傷病鳥獣救護の経験が豊かな林名誉支部長とも相談し、平皿を巣の近くに置き、時々餌を補給することにより、メス親の餌捕りを補助することにしました。
そのうちに、「大成功です!」とのメールが入りました。その後、無事に巣立ち、近くにオスも確認できましたので観察は終了となりました。2023年にも、同じ場所に置いたサンダルで繁殖しました。オスも給餌に参加し無事に巣立ったと連絡が入りました。さて、オスは、個体が入れ替わったのでしょうか?
図2.サンダルの中に作られた巣
厨房出入口脇の灰皿が営巣場所
2014年に車山高原で、あるペンションのオーナーに会って巣の調査をさせてもらいました。巣は,前年と同様、厨房出入口脇にありましたが、今回は,棚の中の大きな陶器製灰皿(直径約17cm)の上に造られていました。それが目の高さほどの位置であったため、出入りするたびに、抱卵中のメスと目が合い、オーナーは、すまない気持ちになって、目隠し用のタオルを棚に止めたそうです(図3)。
人が頻繁に通る場所を好んでジョウビタキが巣を作るのは、人の存在を利用して捕食者の脅威から逃れているためと考えられます。
図3.棚に置かれた灰皿と目隠し用タオル
気に入られた革製ツールバック
ネット検索で、ジョウビタキの繁殖場所が見つかることは多いです。2022年に、ブログの記事をもとに訪問し繁殖が確認できた北杜市のカフェの店主から、幾人かのお客を紹介してらうことができました。その1つで繁殖を確認したあと、家主からご近所でも繁殖したと聞き、案内してもらうことにしました。
若いご夫婦に見せていただいたのは、作業用小屋の隣にある物置の軒下にかけられた革製のツールバッグです(図4)。丁度巣立った後でした。巣の地上高は1mあまりで、お子さん達も容易に覗ける高さですが、やさしく見守っていたそうです。その後、しばらくして連絡が入り、同じ場所で二度目の繁殖を確認しました。さらに、翌年に訪問したら、新築の母屋が完成して、物置のまわりはずいぶんと様子が変わっていましたが、同じバックが同じ場所にかかっていて、その中で繁殖したところを見せてもらいました。ご主人から、このツールバッグは鳥にプレゼントすることにしたと聞きました。
図4.革製のツールバッグ
傘掛けの中で繁殖
2016年に、車山高原に住む諏訪支部会員の福澤さんから連絡を受けて、宿泊施設を訪問しました。巣は、駐車場と少し距離がある宿泊施設への階段の登り口近くに置かれた傘掛けの中に作られていました(図5)。この傘掛けは、郵便受け用の箱を改造して作ったそうで、巣は傘の柄に極めて近い位置の棚にありました。オーナー夫妻によって追加された表示には、顧客と鳥の両方への心遣いが感じられました。
図5.傘掛けと、心遣いが感じられる表示
次回は、ジョウビタキが好む周囲環境についてお伝えする予定です。
幼鳥とメス親 撮影:國尾嗣光