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日本野鳥の会 諏訪支部

夏のジョウビタキ ---

 連載の第7話では、樹洞営巣性の鳥であるジョウビタキが、樹洞に比べて開口部が圧倒的に大きい換気扇フードを好んで営巣する理由について調査しました。今回は、開口部がもう少し小さい、郵便受けや巣箱(図1)について、同じ樹洞営巣性のシジュウカラとの競合関係を調べることにしましょう。


          図1.典型的な郵便受け(左)と巣箱(右).

利用状況で3グループに分ける

 八ヶ岳周辺では、郵便受けと巣箱で、ジョウビタキとシジュウカラが、営巣場所をめぐる競争をしていました。
 そこで、営巣場所を、両種による利用状況に応じて3グループに分けました。ジョウビタキのみが利用した場所をグループ1(以下GR1)、両種が利用した場所をグループ2(以下GR2)、シジュカラのみが利用した場所をグループ3(以下GR3)としました。2010年から2022年にジョウビタキの縄張り範囲を調査した結果、GR1、GR2およびGR3がそれぞれ13か所、10か所および12か所ありました。これらを比較すれば、両種が好む営巣場所の違いが解明できそうです。

構造的要素を比較

 グループ分けした営巣場所を多くの構造的要素に着目して比較しましたが、ここでは次の3つを取り上げました(図2)。立体角:垂直方向に加えて水平方向も加味した巣から見た視界の広さ。開口部面積:巣への出入り口の広さ。下端仰府角:巣から見た垂直方向の視界の高さ。立体角の計算には、第7話と同じ方法をもちいました。


図2.典型的な郵便受けと巣箱を包含する構造図.左が平面図,右が右側面図.視界の広さを立体角として評価しました.

幾何学と統計学を駆使して得られた結果

 3つのグループの分布を、構造的要素ごとに箱ひげ図で示し、比較しました(図3)。
 立体角については、3つのグループの間に分布の重複が少ないことから、グループ間の差が大きいことが読み取れます。このことを、Wilcoxonの順位和検定をもちいて統計的に確かめた結果、GR1とGR2の間およびGR2とGR3の間のP値はP<0.01およびP<0.05で、いずれも有意差(意味のある差)があることが確認できました。


図3. 立体角,開口部面積,下端仰府角の分布を各グループ間で比較. GR1:ジョウビタキのみが利用した営巣場所. GR2:両種が利用した営巣場所. GR3:シジュカラのみが利用した営巣場所.箱ひげ図により,複数のデータのばらつきを比較する事ができます.最大値,75%,中央値,25%は四分位数とよばれ,大きさの順に並べたデータを4等分した位置の数値となります.

巣からの視界の広さが鍵

 つまり、ジョウビタキは、シジュウカラに比較して巣から外を見る視界が広い構造を利用していました。そして、この視界が狭くなる範囲ではシジュウカラも利用するため、競合が起きていました。さらに視界が狭い構造をシジュウカラのみが利用していました。すなわち、両種は巣から外を見る視界の広さにより営巣場所を棲み分けていることが分かりました。
 開口部面積はGR1とGR2の広い範囲で重複していました。すなわち、ジョウビタキは開口部の広さだけではシジュウカラと棲み分けができていません。GR3が小さい値に集中しているのは、シジュウカラが直径27mmの小さな穴の巣箱を独占していることの現れです。
 下端仰府角は、立体角ほどグループ間を分けていませんでしたが、営巣場所の底が深い場所をシジュウカラが利用し、浅い場所をジョウビタキが利用していることが読み取れます。その中間あたりで競合がおきています。

解析方法の有効性が再確認された

 ジョウビタキの営巣場所の選択には視界の広さが影響することが換気扇フードで示されています(第7話)。今回、このことがシジュウカラとの競合でも示されました。
 競合が起きにくい巣箱の条件も視界の広さから解明できる可能性があります。ジョウビタキが利用しやすく他種との競合が少ない巣箱の設計と設置は、換気扇フードや郵便受けで営巣することによる人との軋轢を避けるためにも、有効となるはずです。

引用文献

山路公紀・石井華香(2022)ジョウビタキとシジュウカラの営巣場所における巣からの視界の違い. Bird Res 19: A11-A20.


 次回は、シジュウカラとの競争の具体的事例を今回得られた結果から解説する予定です。

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